2010年6月27日日曜日

紙の本と電子書籍

最近 kindle とか iPad とかの普及で、電子書籍が話題だ。確かに、本を持ち歩くのは重いし、読了後の本は本棚に溢れ、しかも実用書でなければ何度も読み返す本はかなり少ない。それを考えると、電子書籍となれば、重さの問題や、保存の問題も解決する。さらに、電子化によって検索性が確実に向上するし、百科事典等のリファレンス系書籍では電子書籍によって構造化した構成が可能となるといった、電子化に特有の利点も享受することができるようになる。良いことづくめだ。
ところが、一方で、おいらの中には紙の本に対する未練がたっぷりある。たぶん、これからも紙の本を買い続けるであろうと思う。手触りと重さ、パラパラと頁をめくる感覚は、電子書籍では得られない。積み上がった本は、空間を占拠するが、同時に自分の中での知的活動の達成感を高めてくれる。紙とインクの香りもセクシーだ。紙の本を読むという行為が持つ「身体性」に惚れているところがある。
先日、ある方から「今後10年ぐらいで世の中は急激にEV(電気自動車)に変わっていくでしょう。先生はどうされるんですか?」と聞かれた。おいらの答えは「とはいっても、ガソリン車の泥臭さと、MT車の操作感は忘れられないから、やはり今後もガソリン車に拘っていくのではないか」だった。
おいらは「身体性」という桎梏に捕らわれているのだろう。しかし、「身体性」に捕らわれることは後進性では無い。単に考え方の違いだけだ。ただ、生き物としての人間である以上、身体性という要素を積極的に無視するような生き方はしたくない。

2010年6月26日土曜日

書評:生き残る判断 生き残れない行動 / アマンダ・リプリー は良書です

ハリケーンカトリーナ、911米国連続テロ事件、スマトラ沖地震による巨大津波といった、大惨事、大災害が発生した時に、無事に生還した人達がいる。そして、同時に、 そこで無くなってしまった人達もいる。人間の生死を分ける判断、行動はどこに差異があるのか。これらについて、人間の行動、心理学、脳内物質、訓練、知識、経験などの観点から解析を加えていくのが本書だ。
特に、惨事に直面して、頭脳はまず「否認」を最初に行い、何も変なことは発生していない。正常な状況にあるのだ、という「正常性バイアス」をかけて状況認知を誤らせるという事実は、少しでも災害や災難に直面したことのある人間であれば、記憶があることだろう。私も、これまでの人生で、災難に直面し、その瞬間に行動を起こすのではなく「否認」のプロセスに絡め取られたことがあるからだ。
そして「否認」状況を越えて、本当にどうしたらよいかを考える「思考」状況にシフトする。このシフトが短期間に行えることが生き残る大きなファクタだと著者は述べる。すなわち、避難訓練。すなわち、避難経路の確認、避難方法の理解。すなわち、定期的な訓練と刷り込み。呼吸法。4秒吸って、4秒止めて、4秒吐いて、4秒止める。こんなことが、正しい思考を行わせることに大きな助けとなる。とても重要なことは、何をしなければならないか、そして、その順番は何かを考えることだ。計画を立てる。そして、それを明確に意識して行動することなのだ。
さらに「思考」のプロセスでは、集団行動が思考を鈍化させることも明らかにしている。つまり、多くの人間は危機事態では、何も考えられないのだ。従順なまでに、リーダーに対して従う傾向がある。逆に言えば、危機事態ではリーダーシップが機能しやすいのだ。だから、脱出時には、リーダーが声を掛け続けることが大切だという経験則もある。飛行機事故で、順調に逃げられたのは機内職員が声を掛け続け、「動け」、「順番に」、「荷物を持つな」、「1,2,3,ジャンプ」と声を掛け続けたことで、誰もが動き、誰もが脱出できた話が示される。これは大きな教訓だ。また、飛行機から脱出する確率を上げるのは、非常脱出説明を読んでいる集団であることも明らかになる。
そして、いよいよ「行動」を実施しなければならない。しかし、ここにも落とし穴が沢山ある。一つは「パニック」による適正な行動がとれない状況、さらに「麻痺」による行動停止がある。これらを克服して、人間は生き残れなければならない。どちらも生物学的な理由による延命反応なのだ。本能に捕らわれてしまうのだ。そこを乗り切るには、自分に訓練を施すことが必要である。つまり「思考」を優先させるのだ。計画的思考を行う訓練が必要なのだ。
本書は、ドキュメンタリーとしての構成をしているが、やはり教訓が沢山詰まっている。その最たるものが、「八つのP」として紹介されている一言だ。
適切な事前の計画と準備は、最悪の行動を防ぐ
Proper prior planning and preparation prevents piss-poor performance.
災害発生時の自分の行動を予測することを行い、その中で、何を行動しなければならないかを考える。この「思考」のプロセスが、生き残る確率を高めることを本書は伝えている。素晴らしい一冊だ。




ちなみに、著者のHPにも色々な情報が掲載されている。
http://www.amandaripley.com/

2010年6月8日火曜日

書評:「官僚のレトリック」はお勧めです

 おいらは2004年から6年間内閣官房で情報セキュリティ補佐官として勤務してきた。本書で取り扱っている話は、おいらの在任中に、横目でチラチラと見ていた案件だ。そして、官僚が文章に仕込ませるレトリックのテクニックについては、おいらは「霞ヶ関文学」と呼び、おいらのスタッフの皆さんに色々と教えてもらったことだ。まず、疑う人達も沢山いるだろうから、先に書いておくが、本書に書かれている、役人のくだらない言葉での仕込テクニックは本当のことだ(笑)。
さて本書は、公務員制度改革を題材に、安倍自民党政権から鳩山民主党政権までの戦いと、そこでの官僚側が仕掛けてきたことを取り扱い、
  • なぜ公務員制度改革が必要なのか
  • 制度改革として何をすることが必須事項なのか
  • 改革を実施するための戦略は何か
を述べる。本書に書かれていることは、ほぼ正鵠を射た指摘である。本書で提示している解決方法を実現できれば、本当に政治と官僚の関係は、より健全化されると思う。官僚特殊論を排し、普通の知的労働者として機能するようになることと、同時に霞ヶ関に閉じこもり世間知らずにならず、本当の意味で行政専門家として活躍できるようになることが大切だ。そのための処方箋が、本書では論じられている。これは、現在の民主党政権の迷走ぶりを理解する上でも、かなり良い切り込み方だと思う。この本は、とても良い本だと思う。

外部から政府内に送り込まれた専門家として私は、霞ヶ関官僚の専門性の低さ、あるいは、広範な知識集約作業の遅さと下手さを、6年間にわたって毎日見続けてきた。もちろん、優秀な人材も沢山いる。しかし、業務管理の下手さと、政治家の放置プレー、さらには、独特のキャリア制度のおかげで、人材も腐ってきてしまうことも沢山ある。その悲惨さを目の当たりにして、こんなに人材を大切にしない組織は無いなあって思ったほどだ。また、チームプレーという面では、官僚はとてつもなく下手だ。こんな役所の状況を、手直しして機能するオフィスにすることも「公務員制度改革」には含まれなければならない。
この観点から考えると、現在提案されている公務員制度改革では、天下りと渡りの禁止だけを大目標にしてしまい、多少ボロい提案だと思う。天下り関連意外に深刻な問題なのは、行政スタッフの能力向上をどうするのかということだ。政府は過去と比較して日々複雑さを増す事項を取り扱うようになっている。そのためには、単に東大法学部を卒業したキャリア行政官だけではなく、官民からかき集めた多彩な専門性を持ったチームを形成し、全力で問題を解決していくことが必要なのだ。そのための公務員制度改革と考えることが、今求められることだと思う。
著者の原さんは、霞ヶ関の機能低下問題も指摘はしているが、官民人材交流以上の具体的な処方箋を提示していないことは多少残念に思った。リボルビングドアをどう作っていくか等、考えることは沢山あるように思う。原さんには、より広い意味での「機能する霞ヶ関」への処方箋も提示して欲しかったと思うのは、ちょっと贅沢だったかしら(笑)

書評:ロストシンボルは、おいらにとっては「ボール球」でした

今年2010年3月に発売になったダンブラウンの「ロスト・シンボル」は、ラングドン教授シリーズ第3作。今回はワシントンDCを舞台に、フリーメイソンの秘密に迫る内容。いつものように、スピード感溢れる速い展開。そして、ラングドンはいつも通り無理矢理謎解きをさせられる。出張中に飛行機やホテルで読むには最高のペースの良さだ。
しかしだ、しかしな、今回は「ロストシンボル」ってぐらいで、図形に関わる話が多くて、文字だけ追いかけていってもわかりにくいのよ(涙)さらに、Washington D.C. をよく知っていれば、建物の形状とか分かっていれば、地理関係がよく分かっていれば面白いのかもしれないが、これまた分かりにくい。そこはどこ?ベルトコンベヤの行き先は、あの街のどこよ。ってな感じでねぇ、欲求不満が溜まるの。地図を片手に読まないと、関係が全然わからん。
あとね、話の展開の仕方が、あまりに予想できる内容だったのが少し残念。フリーメイソンについては、米国でも、日本でも色々と書かれている書物がある。それらにちりばめられている様々な情報と断片を徹底して使って、色々な味を付けた感じの小説になっている。そのために、少し無理があるような展開なのだ。その無理さを、ラングドン教授に語らせる辺りが、少しガッカリしてますな。
ということで、。前作「ダビンチコード」よりも、おいらの評価では「下」だと思います。もっと上を期待していたおいらとしては、単行本上下2冊で4千円弱は、ちょっと高いっす。でも、念のため。普通の小説と比べれば、良い感じには仕上がっているのですよ。そこはそうなんだけどなぁ。まぁ、まずはダビンチコードを読んで頂いて、その後、本書を読めば意味が分かってくれるとおもうんですけどね。ちなみに、出張中に読むには、手頃でお勧め。おいらはアフリカ出張中に読みました。
ちなみに、純粋理性科学は興味をひいた。純粋理性科学研究所のホームページ、あります。