2011年8月16日火曜日

書評:「旅する力」深夜特急ノート

おいらが始めて沢木耕太郎の叙述を読んだのは、高校生1年生の時に書店でふと手にした「破れざる者たち」というノンフィクション作品集だった。東京オリンピックの マラソン選手円谷光吉が何故「幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまって走れません」というフレーズを残して自殺してしまったのか。その痛々しいまでの真っ 直ぐさを、沢木の言葉が表現していく。そして、汗の臭いを感じ、若き命をかけた者達の姿を描き出していた。高校生の時に出会った一冊とはいえ、相当強い印 象を残していった一冊だ。
その沢木は、アジアからロンドンまでを移動する旅のルポルタージュのような、しかし、しっかりとした小説として組み上げた「深夜特急」で、一 躍スターダムに駆け上がる。貧乏ながら、若い時代に本当の旅をする。その旅が自分の人生に与えるものは何なのかを「深夜特急」では描いていく。おいらは 「深夜特急」は大学院修士課程の2年生の時に手にした。1987年だったと思う。まだ海外旅行を経験したことはなく、パスポートも手にしてなかった頃だ。 そのときのおいらは、この旅のルポルタージュを耽読し、しかし、数ヶ月にわたる旅をする勇気もない自分の中に生まれた泡立つ感覚をどうしようと悩んだもの だった。その後、1988年博士課程1年生の5月に韓国への出張を皮切りに、それ以降、海外出張に明け暮れる日々を過ごしている。海外に直ぐに行きたくな る気持ちの奥底には、「深夜特急」のような長期間の旅を経験したことが無いが、どうしても海外に身を置くことで、改めて自分を相対的に眺めるチャンスを得 たいと思う気持ちが、おいらを「海外に行こう!」って押すのだろうなと思っている。
この「旅する力」は、沢木耕太郎が何を考え、どのような旅を作り上げたかについてのエッセー集だ。そこには、色々な気持ち、そして60歳を越 えた今改めて振り返る旅の意味を語っている。本書は、深夜特急を読了後、期間をおいてから改めて振り返るための本として読むのがよいと思う。もしも、「深 夜特急」を読んでないとしたら、今からでも遅くない。何歳になっても遅くない。是非読むべき。旅はすばらしい力を持っているのだから。

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