2010年6月8日火曜日

書評:「官僚のレトリック」はお勧めです

 おいらは2004年から6年間内閣官房で情報セキュリティ補佐官として勤務してきた。本書で取り扱っている話は、おいらの在任中に、横目でチラチラと見ていた案件だ。そして、官僚が文章に仕込ませるレトリックのテクニックについては、おいらは「霞ヶ関文学」と呼び、おいらのスタッフの皆さんに色々と教えてもらったことだ。まず、疑う人達も沢山いるだろうから、先に書いておくが、本書に書かれている、役人のくだらない言葉での仕込テクニックは本当のことだ(笑)。
さて本書は、公務員制度改革を題材に、安倍自民党政権から鳩山民主党政権までの戦いと、そこでの官僚側が仕掛けてきたことを取り扱い、
  • なぜ公務員制度改革が必要なのか
  • 制度改革として何をすることが必須事項なのか
  • 改革を実施するための戦略は何か
を述べる。本書に書かれていることは、ほぼ正鵠を射た指摘である。本書で提示している解決方法を実現できれば、本当に政治と官僚の関係は、より健全化されると思う。官僚特殊論を排し、普通の知的労働者として機能するようになることと、同時に霞ヶ関に閉じこもり世間知らずにならず、本当の意味で行政専門家として活躍できるようになることが大切だ。そのための処方箋が、本書では論じられている。これは、現在の民主党政権の迷走ぶりを理解する上でも、かなり良い切り込み方だと思う。この本は、とても良い本だと思う。

外部から政府内に送り込まれた専門家として私は、霞ヶ関官僚の専門性の低さ、あるいは、広範な知識集約作業の遅さと下手さを、6年間にわたって毎日見続けてきた。もちろん、優秀な人材も沢山いる。しかし、業務管理の下手さと、政治家の放置プレー、さらには、独特のキャリア制度のおかげで、人材も腐ってきてしまうことも沢山ある。その悲惨さを目の当たりにして、こんなに人材を大切にしない組織は無いなあって思ったほどだ。また、チームプレーという面では、官僚はとてつもなく下手だ。こんな役所の状況を、手直しして機能するオフィスにすることも「公務員制度改革」には含まれなければならない。
この観点から考えると、現在提案されている公務員制度改革では、天下りと渡りの禁止だけを大目標にしてしまい、多少ボロい提案だと思う。天下り関連意外に深刻な問題なのは、行政スタッフの能力向上をどうするのかということだ。政府は過去と比較して日々複雑さを増す事項を取り扱うようになっている。そのためには、単に東大法学部を卒業したキャリア行政官だけではなく、官民からかき集めた多彩な専門性を持ったチームを形成し、全力で問題を解決していくことが必要なのだ。そのための公務員制度改革と考えることが、今求められることだと思う。
著者の原さんは、霞ヶ関の機能低下問題も指摘はしているが、官民人材交流以上の具体的な処方箋を提示していないことは多少残念に思った。リボルビングドアをどう作っていくか等、考えることは沢山あるように思う。原さんには、より広い意味での「機能する霞ヶ関」への処方箋も提示して欲しかったと思うのは、ちょっと贅沢だったかしら(笑)

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