2010年6月26日土曜日

書評:生き残る判断 生き残れない行動 / アマンダ・リプリー は良書です

ハリケーンカトリーナ、911米国連続テロ事件、スマトラ沖地震による巨大津波といった、大惨事、大災害が発生した時に、無事に生還した人達がいる。そして、同時に、 そこで無くなってしまった人達もいる。人間の生死を分ける判断、行動はどこに差異があるのか。これらについて、人間の行動、心理学、脳内物質、訓練、知識、経験などの観点から解析を加えていくのが本書だ。
特に、惨事に直面して、頭脳はまず「否認」を最初に行い、何も変なことは発生していない。正常な状況にあるのだ、という「正常性バイアス」をかけて状況認知を誤らせるという事実は、少しでも災害や災難に直面したことのある人間であれば、記憶があることだろう。私も、これまでの人生で、災難に直面し、その瞬間に行動を起こすのではなく「否認」のプロセスに絡め取られたことがあるからだ。
そして「否認」状況を越えて、本当にどうしたらよいかを考える「思考」状況にシフトする。このシフトが短期間に行えることが生き残る大きなファクタだと著者は述べる。すなわち、避難訓練。すなわち、避難経路の確認、避難方法の理解。すなわち、定期的な訓練と刷り込み。呼吸法。4秒吸って、4秒止めて、4秒吐いて、4秒止める。こんなことが、正しい思考を行わせることに大きな助けとなる。とても重要なことは、何をしなければならないか、そして、その順番は何かを考えることだ。計画を立てる。そして、それを明確に意識して行動することなのだ。
さらに「思考」のプロセスでは、集団行動が思考を鈍化させることも明らかにしている。つまり、多くの人間は危機事態では、何も考えられないのだ。従順なまでに、リーダーに対して従う傾向がある。逆に言えば、危機事態ではリーダーシップが機能しやすいのだ。だから、脱出時には、リーダーが声を掛け続けることが大切だという経験則もある。飛行機事故で、順調に逃げられたのは機内職員が声を掛け続け、「動け」、「順番に」、「荷物を持つな」、「1,2,3,ジャンプ」と声を掛け続けたことで、誰もが動き、誰もが脱出できた話が示される。これは大きな教訓だ。また、飛行機から脱出する確率を上げるのは、非常脱出説明を読んでいる集団であることも明らかになる。
そして、いよいよ「行動」を実施しなければならない。しかし、ここにも落とし穴が沢山ある。一つは「パニック」による適正な行動がとれない状況、さらに「麻痺」による行動停止がある。これらを克服して、人間は生き残れなければならない。どちらも生物学的な理由による延命反応なのだ。本能に捕らわれてしまうのだ。そこを乗り切るには、自分に訓練を施すことが必要である。つまり「思考」を優先させるのだ。計画的思考を行う訓練が必要なのだ。
本書は、ドキュメンタリーとしての構成をしているが、やはり教訓が沢山詰まっている。その最たるものが、「八つのP」として紹介されている一言だ。
適切な事前の計画と準備は、最悪の行動を防ぐ
Proper prior planning and preparation prevents piss-poor performance.
災害発生時の自分の行動を予測することを行い、その中で、何を行動しなければならないかを考える。この「思考」のプロセスが、生き残る確率を高めることを本書は伝えている。素晴らしい一冊だ。




ちなみに、著者のHPにも色々な情報が掲載されている。
http://www.amandaripley.com/

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