2010年4月11日日曜日

書評:キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』

日本人の宗教観は「いい加減」なものだ。結婚式はキリスト教式で行い、葬式は仏教式で行う。新年を祝う時には、神道(神社)にお参りし、儒教の影響をとても受けた道徳観も併せ持つ。我が国民は、八百万(やおよろず)の神々との関係が自然なのだろう。実際、自然と対峙して仕事をしている杣人たる父親を長年見ていると、自然への畏れを持ち、自然の所業は多くの神々の怒りの表れと考え、自然を鎮めるために多くの神々を祭るのが普通であった。そして、それは他の人達とも自然に共有される概念であった。日本人の考え方の深層には、自然への畏れを起源とする多神教的な認識回路が機能しているように思う。

一方、欧州民族においては、キリスト教による教化と社会統制が長年行われてきたために、二元論的な価値観(善か悪か)と、価値観に合致しない異なる考え方に対する排除の原理が組み込まれている。このような状況は良いのだろうか。

著者であるニーチェは、本書において、徹底したキリスト教批判を展開する。すなわち、キリスト教は不合理、矛盾、傲慢、ご都合主義が充満したもので、しかも、異なる価値観を排除し、原理主義的行動を良しとする宗教であることを、合理的に示している。我々、アジア系宗教に多い、多神教を基盤とする宗教とは全く相容れないものであることも述べる。「仏教は優れている」とも言う。そして、キリスト教最大の問題は「退廃」を助長することだと。

元々「反キリスト」は、堅苦しい日本語訳の書籍が存在し、大学1,2年生にとって、哲学、あるいは思想史の授業で必読とされている一冊だ。欧州ニヒリズムを理解するために、必ず読めと言われる。しかしながら、その表現は、学生の読破力を試すどころか、10頁も読むと既に「どうでもええわい」という気分にさせ、それ以後は最良の睡眠導入剤になるのだ。さて、本書は現代語訳と銘打たれており、苦痛無く読みやすい日本語として構成されている。当然、普通の小説やビジネス書を読むように、すいすいと読み進むことができる。その意味で、ニーチェの主張を短時間に理解するのには素敵な本である。
もしも、興味が尽きなければ、その後で、本格的な翻訳を購入すれば良いだろう。


ちなみに、本格的翻訳ものは、次の二つだ。ちくま書房出版のものはペーター・ガースト版の翻訳、白水社のものはデ・グロイター版の翻訳である。
 

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