2010年4月4日日曜日

書評:大暴落1929 、グローバル恐慌 - 金融暴走時代の果てに

1955年に初版発行された「大暴落1929」は、米国ニューヨーク証券取引所で起きた1929年10月24日の「暗黒の木曜日」と称された大暴落は何故起きたのかを、経済学者ガルブレイズが克明に解説する。恐慌とは、実体経済と、金融活動が仮定している経済規模の乖離が大きくなりすぎて、その乖離を暴力的に是正する状況を意味する。1929年の大暴落は、不動産価値が無限に上昇するという幻想の元で作り出された不動産バブル、会社出資型投資信託という新しいツールの登場と高いレバレッジ率を誇った売り込み、金融機関同士が出資もたれ合いをしていた状況、高いコールレートの存在などを通じて、ニューヨーク証券取引所に世界中の資金が集中したところから始まる。そして、まさに数年間の時間を掛けて、実体経済から乖離された金融商品取引環境が作りだされたのだ。さらに、レバレッジは右肩上がりにも効くが、右肩下がりにも同じく大きなインパクトで下げを喰らう。結果として、一度売りに転じたところで、ドンドンと雪だるま的に市場は下落し、同時に追い証を求められた投資家が株を売りという最悪の雪崩現象を生み出した。そして結果としては、一日にして約1290万株が売られ、最悪の暴落を記録する。さらに、その後、市場は下げまくり、金融市場の不調は、資金調達の困難を広く生み出し、結果として実体経済にも大きな影響を広げる。1000社を越える銀行が潰れ、経済も大きく収縮。その後10年間、米国経済は復活に時間を使うことになってしまう。
本書は、大暴落が起きるメカニズムを分かりやすく、かつ体系的に解説する。そして、この雪崩を引き起こしてしまった状況が、商業銀行と投資銀行の垣根が無かったことや、コールレートの制御をFRBが持っていなかったこと、さらには、投資規制が適切に行われてなかったことを明らかにする。1929年以降に、これらのメカニズムは改善されたことも述べている。また、金本位制を引いたドルのために、本当は市場に資金供給が潤沢になされなければならなかった時に、ドルが大量に国外に流出したために、逆に資金供給を引き締めなければならなかったこともメカニズムの不備として述べている。これは、その後の管理通貨制度への道を開いたのだった。
ガルブレイズの述べる言葉は大変意味深い。
  • 本当に実態が悪くなっている時に人は、「状況は基本的に健全である」という言葉を口にする。
  • 人は確信がもてないときほど独断的になりやすい。
  • 何かをするためでなく、何もしないために開く集まりがある。
  • 人間は知っていることばかりを話すのでもなければ、知らないことばかり話すのでもなく、知っているつもりだが、実は知らないことを話すことが多い。
もう一つ重要なのは、1929年大暴落を契機に、恐慌を防ぐために色々な制度を作ってきた。しかし、この制度は、実は1971年のニクソンショックを契機に撤廃されてきている。この事は、本書では述べていないので、注意すべきである。



さて、浜矩子先生の「グローバル恐慌 - 金融暴走時代の果てに 」は、ガルブレイズの「大暴落1929」を読破してから読むと、さらに理解が深まる良い本だ。
2008年リーマンショックは、世界中の金融市場と金融機関を巻き込んで、100年に一度の最悪の状況を生み出している。これを世界同時金融危機と呼ぶことが多いが、浜は、これこそがグローバル恐慌そのものであると主張する。
本書では、この恐慌が1971年のニクソンショックにまで原因が遡ることができること、米国のインフラ頼みの成長政策と金融規制緩和が原因にあること、さらには、バブル崩壊からの日本円のゼロ金利政策が今回の恐慌の大きな原因であることを述べる。債権の証券化は、単に世界中にリスクをばらまく手法であったと、バッサリ切り捨てる。2009年当初の状況を踏まえ、この恐慌がどうなるのかを見てるのが本書である。さらに、日本円は、いまやグローバル経済の「隠れ基軸通貨」になっていることも述べる。
本書を読了してショックなのは、この恐慌から世界経済が復活するには10年掛かると述べている。日本は、既に「失われた10年」を体験し、そのままグローバル恐慌からの復帰10年、つまり合計で20年不況を経験することになるという話だ。覚悟はしているが、やはり気分は凹むなぁ。

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